• 受講生インタビュー

みんなで共創の世界を作りたい

PROFILE
共創コーチング株式会社 取締役
稲垣 陽子(いながき ようこ)

青山学院大学にて心理学を学んだ後、上海に渡り、プライスウォーターハウス上海事務所にて中国進出を目指す日系企業のコンサルティングを行う。帰国後、株式会社コーチ・トゥエンティワン(現:コーチエィ)に入社。コーチングがまだ日本で知られてない90年代後半から開拓し、日本の大手企業でも大きく取り入れられる基盤づくりに貢献。

2001年2月 結婚を機に退社し三重県へ転居。多くのコーチがクライアント獲得に悩む中、クライアント延べ数200名以上、契約企業約100社以上の実績を作る。コーチ実績時間は15,000時間を越え、その半分以上が企業の社長。

現在、社長専門コーチとして全国で活躍。社長のメンタル面でのサポートに始まり、社長と社員(リーダーと部下)をつなぐためのコーポレートコーチングも全国で展開している。2006年に東海地区最初の国際コーチ連盟(ICF)認定マスターコーチの資格を取得。以降、ICFの規定に基づいたコーチングを実施し、コーチ養成にも力を入れている。

企業の社長のほか、中間管理職やリーダー層、一般社員にもコーチングの対象を広げ、チーム内のコミュニケーション改善と組織の活性化を目指して活動。自分も相手も活かす【共創コーチング®】を創設。

はじめに、コーチングとの出会いから教えてください。

 私は大学卒業後に「中国語が話せるようになったらいいな」という思いで上海へ渡り、数ヶ月後の語学研修の後、縁あって外資系コンサルティング会社で働いていました。社員300人中、日本人はボスと私の二人だけ。毎日はとても刺激的ではありましたが、私自身は英語も中国語もまともに喋れないし、特別な資格があるわけでもなく、自分に自信が持てない日々を過ごしていました。

 私は上海で何をしたいのだろう、結婚はどうしよう、本当にこのまま中国に居続けるのか、など、自分のキャリアや女性としての人生について悩み、悶々とする日々を過ごしていたのです。

 そんな時、アメリカでコーチングを学び、日本に帰る途中で上海に遊びに来た方がいて、その方のお食事会に呼んでいただけました。それが、CTIの創設者である榎本英剛さん。そこで初めて「コーチング」というものがある、人の夢や目標を達成する事をサポートする仕事だと教えていただきました。でも、最初の印象は「胡散臭い。なにそれ!?怪しいっ!」(笑)。思いっきり斜に構えた態度だったと思います。するとそれを察した榎本さんが「じゃ、コーチングしてあげるよ」と言ってきたんです。何されるんだろうと思ったら「あなたは本当はどんな自分になりたいの?」「何の制限も無かったら、何からやってみたい?」ってただ質問するだけ。

 でも、私はその質問に即答することができませんでした。確かに日々悩んではいたけれど、真剣に自分のこととして考えてはいなかったのです。でも、「今質問された事がクリアーになったら、私の人生もっと楽しくなるな」と、思いました。私にとって、本当に大切なモノは何か、自分自身に向き合った感じがしたのだと思います。

 そして、こんなことができるコーチングって面白い、私もやりたい!ってすごく興味を持ちました。人生はじめてと言ってよいくらい、自分からやってみたいと思った経験でした。

  その後、1997年末に私は日本に帰国しました。当時はコーチングなんていう仕事はなく、「ベンチャー企業」「アントレプレナー(起業家)」という言葉が流行っていた時期でもあったので、そういう仕事につけたらと就活をしました。

 あるインターネットの会社の面接を受ける事になったのですが、その会社の面接室の壁に一枚の認定証が貼ってあったのです。それがコーチング認定証。その会社がコーチングの会社を立ち上げようとしている事を聴かされます。もうびっくりですよね。「私、それやりたいです!!」って一人で大興奮でした。

 そんなご縁で立ち上げ当初のコーチ21(現コーチ・エイ)に入社させていただくことになりました。コーチングの神様が、引き合わせてくれたのだと勝手に思っています。

 

 コーチングの会社に入って、どうでしたか?

 念願のコーチングの会社に入ったけれど、毎日ハートブレイクの連続です。コーチングが上手くできません。私はコーチに向いていないなとも思いました。これが私のスタートです。

 質問なんて全然出てこない。人の話も全く聴けない。人の話を聴こうと思うと、目がチカチカするし、質問しろと言われても思いつかない。もう全く自信がない。どんどんコーチングが嫌いになっていきました(笑)。だから業務も、コーチというよりも営業やプロコーチのバックヤード的な仕事を、ずっとしていました。

 でも、どこかでコーチングができるようになりたいって思っていたんでしょうね。どうしたら質問ができるようになるかと考えて、毎日メモ帳を持ち歩いて耳にする質問を書き留めたり、テレビのコメンテーターのコメントや良い話を質問の形に変えてメモしたりしていました。

 例えば、「引き寄せの法則が大事です」とあれば、「あなたは、何をしたら引き寄せる事ができますか」「引き寄せが大事と言われますが、そのためにあなたができることは何ですか?」と質問の形に変えてメモをして質問を作る練習をしていました。

 聴くことに関しては、出来るようになったのは、コーチになってから4~5年目、独立して2年目ぐらいだと思います。勉強会に行った翌日、セッションをしていたらぱっか~んと、ただただクライアントの言いたい事や言葉を浴びるように聴ける感覚になった事がありました。それは、今でも覚えています。ICFのコアコンピテンシーでは「クライアントが何を話し、何を話していないかに集中する」と言っていますが、まさにそんな感じで、言語・非言語を超えて、相手の本当に言いたいことが自分の中に入ってくるような感覚がありました。

 これもコーチングを下手だと自覚していたので、定期的に勉強会へ行き、自分に刺激を与え研鑽を続けていたことが良かったんだな、と思います。

 

コーチングスクールをやろうと思ったのは、何がきっかけでしたか?

 2001年に独立した私は、コーポレートコーチングを得意としていました。企業に入り、現場で上司と部下の思いをつなげるために組織の関係性やコミュニケーションについてコーチングをしたり、研修などをしていました。それで十分に充実していました。だから、コーチになりたいという人がいたら、ずっとコーチ・エイに紹介していたのです。10数年で80人ぐらい紹介したのじゃないかしら。ところがある時期から、コーチ・エイが組織のリーダー中心のコーチング色が強くなり、プロコーチになりたい人や教育や育成・指導に活用したい人たちにはちょっと敷居が高くなってきて。その時に、紹介先が見つからずどうしたらいいのだろうと考えたのが、そもそものきっかけでした。

 当時、NHKカルチャーセンターではすでにコーチングを教えていました。でも、カルチャーセンターレベルだとスキルを学んで満足になりがちです。どうせやるなら学んだ先に、今とは違う自分自身の未来や可能性を感じられるそんな場であって欲しい。それなら最高の資格を目指せるACTP認定のスクールをやろうと、来てくれる受講生にも希望になるのではないか、そんな思いからスクールを立ち上げることにしました。

 そこから、私たちの軸はなんだろうと思った時に出てきた言葉が「共創」で、(その経緯はジョニーのページを参照)共創を創れる人を創る、みんなで共創を創れる人を目指そうというスクールが、2014年に誕生しました。

 

共創が作れる人とは、どういうものですか?

 言語化するのが難しいけど(笑)…。コミュニケーションで言うと、相手の懐に入るし、こちらの懐にも入らせる人。自分も言うけど相手にも自由に言わせる、どちらも対等で主体的になって対話を作り、新しい価値を創り出せる人。それが共創を創っている人じゃないかしら。共創を創れる人は、その人に触れるだけで自分の中の創造性やエネルギーがぐんと上がるような感覚になります。

 また、共創を創れる人の一言は、その一言の後に感じる自分の気づきやインパクトが大きいので、何を言われたのか忘れてしまうことがあります。

 これは我が家の話ですが、あるお坊さんに断りの電話を入れなければならなかった事があります。大変申し訳ない思いで電話をしましたし、怒られても当然の事だったのですが、絶対にこちらを傷つけない、深くこちらの状況が許されるような、そういう返答が返ってきました。具体的な言葉は覚えていないのだけど、電話を切った後ジョニーと二人で感動して泣いてしまいました。
 なんという心意気、なんという心安さ。究極は、こういう感じ。何と言われたのかは覚えていないのが申し訳ないのですが(笑)、それくらい私の中で起こった感情や思考の変化の方が強かった。読後感ならぬ伝後感とも言いましょうか。本人の中で生まれる新たなる気づき、自分には出来るという思い、何か新しい創造性が動き出す、自発性に揺り動かされる感じ。そういうことが出来る人を、共創を創れる人と思うし、そういう人を目指したいと思います。

 でもいきなりこのレベルは難しいので、まずはコーチングスキルを意識することですね。

 コーチングというと、こちらの力を使わず相手の力を引き出そう!というような、どこか「引き出す」という言葉が先走ります。そのため企業の現場で使おうとすると、上司の立場の人から自分の意見をグッと抑えて、部下の話をずっと聴かないといけないのかと言われます。
 そうではなく、「相手が主体的にうまくいく」ことを考えると、ぜひ上司の力や経験は役に立つので、掛け合わせてもらいたいと思います。
 その時に大事になるのが、「対等性」。普通にアドバイスすると力学が生まれて対等性が崩れます。そうではなくお互いが主体的になれるような対話を作る事。その時に、まずは相手の意見を聞いたり、答えを与えるのではなく質問をしたりすることで、上司に言われたから、コーチに言われたからではなく、誰に言われたかも忘れてしまうくらい、自分が決めて、自分が考えて自分で選んで決めたという感覚になると思います。そういう「動けていく人」を創っていく事が共創であり、共創を創れる人なのだと思います。

 

コーチングを伝えていて良かった事は、どんなところでしたか?

  コーチングセッションをやっていると、クライアントがパッカ~ンって何かに気づく、エネルギーシフトする瞬間があります。今まで見ていないものに気づく、自分の中の深い洞察にアタッチする、とも言えるでしょう。その結果、その人の人生にちょっと変化が起きるんです。

 以前スクールに来ていた方が話してくれた話です。
彼女の一人息子さんが、親元を離れて東京の大学に行く事になりました。初めて一人暮らしをする息子をつい心配になる彼女は、事あるごとに「これは大丈夫なの?あれはこうしなさい」と、電話をしてしまいます。でも息子としては鬱陶しいですよね。大学もスタートして、イベントもたくさんあったのでしょう。だんだんと、不在着信になる事が多くなってきました。そんな時、スクールで「聴く」を学んだ彼女は、自分は息子の話を聞いていなかったと反省し、息子が電話にでたら自分が喋らず話を聴く事に集中してみました。すると、慣れない環境の中でも、一生懸命頑張っているんだなぁ、一人暮らしでストレスがあっても本人なりに努力しているんだなぁということがわかり、思わず「頑張っているんだね」「大学生活楽しいんだね」と承認の言葉が自然と出てきたそうです。息子の話を心配ではなく、承認の気持ちで聞けて「久しぶりに息子と気持ちよく話が出来ました」と言っておられました。

 さらに、これには後日談があります。
4月・GWと、息子が不在といういつもとは違う時間が過ぎたその週の週末、なんと息子がふらりと帰ってきたそうです。手には一輪のカーネーションの花を持って。その日は母の日でした。だからと言って何かあったわけではありません。あまりに突然だったので、何かできることもなく、ありあわせのものでご飯を作って食べさせて、その後、息子は高校の友達のところへ出かけていってしまい、顔を合わせる事なく深夜バスで帰っていったそうです。「たったそれだけのことなの」と、彼女は私に向かって微笑みながら「でもね、私とっても嬉しかったのよ。」と涙を浮かべて話してくれました。

 そういうお話を聴かせていただくたびに、私はコーチングを伝えていて良かったなぁと思います。その人がよくなるだけでなく、コーチとしては、その人の周りをイメージしながらコーチングをしています。例えば、その人が家に帰れば、その人の家族に影響を与えると思っています。その人のまわりに幸せややすらぎが生まれてきたらいいなって。

 成果や目標達成というような大きな変化は、もちろん嬉しいです。ですが、日常の小さな変化を作り出す事で、その人、あるいはその先の周りの人たちに、何か変化や違いを作り出す事が面白い。それが、結果的にその人の何かやろうとしている一歩に繋がったり、新たな可能性に繋がったりしていくといいなと思っています。

 

コーチングに必要な意識は、どういうものなのでしょうか?

  ジャネット・ハーベイさんというコーチが、動画の中で「コーチは、1週間のうちの1時間セッションをやっても、クライアントは、残りの6日と23時間、その人の現実の世界にある。どんなにいいセッションでも、その現実になにか変化が無ければ、なんら意味がない。」と言いました。

 つまり、クライアントが「この間コーチと何話したっけ?」ってノートを見返すようでは、意味はないと言っているのです。コーチングセッション内で気づきがあるとか、良いセッションである事も大事だけれど、それよりも、そのセッションをきっかけに、その人が日常でどれだけ良いスタートが切れるか、どれだけ変化や違いが生まれてくるだろうか、ということを意識しながらやっています。

 今日はいい質問ができたなとか、昔は考えていましたが、今はほぼ考えていないです(笑)。現実をいかに変えていくか、その軸としてICFのコアコンピテンシーは、よく出来ています。学べば学ぶほど、コーチとしての本質を示していると思うし、もっともっと磨いていきたいと思います。

 

プロコーチを目指す人へ、アドバイスがあればお願いします。

 よく聴かれる質問があるので、それにお答えします。

 問:コーチに向いている人はどんな人ですか?

 答:ひとつは、人に興味を持てる人。もう一つは、様々な出来事を振り返り自分の成長や学習につなげられる人。この両方を合わせ持つ人です。

 コーチングは成果も大事ですが、プロセスもとても大事。そこで何を成長とするか、学習とするか、そういう視点を持っている事が大切です。コーチ自身が自分を取り巻く出来事から内省し、何を学びどう自分の成長につなげるか、振り返りが出来る必要があります。それは、実際にクライアントに対しても出来るようになるからです。

 問:プロコーチとして成功するために必要な事は、なんですか?

 答:まずはきちんとしたコーチングスキルとマインド。特にコーチングとカウンセリングとコンサルティングの違いを自覚的に分かっていることが大切。クライアントが混乱しますから。そして「応援される人」というのが、大事です。

 実際、私も応援されました。独立した時に、プロコーチの仲間がクライアントを紹介してくれたり、本当はコーチングを理解していたわけではないと思うけれど、義理の父が紹介してくれました。うまくいっている人の特徴は、身近な人の応援がある事。一生懸命やっている事が伝わるのだと思います。かといって家族の応援がないとか、人脈が無いと成功しないかというと、そういう意味ではありません。

 決めた事をきちんとやる。例えば、毎日SNSに投稿すると決めたら、きちんとやる。ただ、クライアントを取ろうという意気込みでやるのではなく、コーチングを通して人のために何かをやろうと一生懸命やっている姿に応援が集まるのだと思います。
まず、「応援される人」を目指す事、それが成功の第一歩だと思います。

  

陽子さんの目標やビジョンについて聴かせてください。

  ひとつは、共創が出来る人になる事。私自身が、まだまだ共創できる人になれていません。競争ばかりです。そこを目指しています。

 もうひとつのビジョンは、全国都道府県にひとりは共創コーチ資格者がいること。そこから、共創が作られ広がっていくと考えているからです。現在は14都府県。海外ではネパールにもいるんですよ。もう全国じゃ狭いよね(笑)。

 共創学会の方に聞いたのですが、「共創(co-creative)」は日本的なのだそうです。似て非なるものとして「コラボレイト(collaborate)」があります。「コラボレイト」は、それぞれの才能や分野は侵食されずに、新しい場に出して、みんなで協働していく事。「コクリエイティブ」は、誰が出したのかわからない力が場に集まり、新しい価値が生まれてくる事。日本人は当たり前にできる感覚であり、場の意識です。共創とは、まさにそういうモノと思っています。
共創が、日本全土からアジアへ、そして世界へと広げていけると良いなと思っています。