• 受講生インタビュー

命は有限だからこそ、悔いのない人生を。コーチングで実現したい事。

PROFILE
松野(兼松)咲子(まつの(かねまつ)さきこ)

神奈川県横浜市出身。
弟が障がい児である家庭環境の経験を役立てるため、2010年に理学療法士免許を取得。
病院勤務中に患者様のリハビリの主体性を引き出すことにコーチング的な関わりが有効であると気づく。その経験から介護老人保健施設では独自にコーチングを学ぶも、多職種連携・人材育成に関する課題に直面する。
2020年から共創コーチ®養成スクールで本格的にコーチングを学び始め、2021年に共創コーチ®認定を取得。
その後主任として勤務する中、多様な課題に対する解決方法としてコーチングの効果を体感する。

マネジメントに尽力する中、医療・介護分野で働く人をサポートしたい想いが強くなり、理学療法士の枠を越えたコーチとして支援するために2023年3月に退職。
現在は理学療法士として介護予防事業に携わりながら、「1病院、1施設に1コーチ」のビジョンを実現するためプロコーチとしても活動中。

現在はどのようなお仕事をされていますか?

 私は市の理学療法士として非常勤で勤務しており、地域住民に対して健康作りの普及活動を行っています。これには講師活動や保健師のサポートが含まれます。また、2024年からはコーチとしても活動を本格化させる予定です。

現在の仕事において、コーチングをどのように活かしていますか?

 私たちの講義は健康作りに焦点を当てており、「体力作りはこのようにしてください」と伝える事に重きを置いているため、一方通行になりがちです。

 しかし、興味を持って参加してもらっても、すべての内容を完全に理解し実践するのは難しいものです。そこで、参加者に内容を自分のものにしてもらうために、アウトプットの時間を設けるなど、コーチングの手法を取り入れています。

 先日、私が担当した講義では、「社会参加」をテーマにしました。「人とのつながりは健康によい」というものです。今まではコロナ禍で、参加者様同士が話をする場を設けることは難しかったのですが、初めて「コミュニケーションを取る」事をしてもらいました。みなさん、すごい勢いで喋り出しまして「時間です」と言っても、止まりませんでした(笑)。結構、自分の事を話し足りないのだなと、実感した瞬間でした。

 話したくない人は話さなくてもいい、大勢の前で話しにくかったり、遠慮してしまったりという方もいるので、少人数に分けて、安心してみんなが話せるようにルールや順番を作る等、ファシリテーターの部分に気を付けました。

 それと、これからの事になりますが、私なりに目指したい講義の形があります。

 私たちの健康作りの講義は、どうしても「これをやらないとこうなってしまうよ」というある意味脅しに近いアプローチになりがちです。運動不足や栄養が偏っていると、筋肉が落ちて活動量が減り、鬱になって介護を必要とする事になりますよ、そうならないようにしましょう、というような。

 WHOでは、健康の定義を「肉体的にも精神的にも社会的にも満たされている状態である」としています。「病気ではない、弱っていないから健康である」ではないのです。

 つまり「健康」は目的ではなく、「健康な上で何がしたいのか」が目的や目標にあると思います。健康で居続ける事が目的ではなく、健康でどんな生活がしたいのか、どんな人生を歩みたいのかという事が大事だなと考えています。こういった事が目標としてあると、取り組みやすくなるし、意欲も上がり充実するのではと思っています。

 ただ、講義に参加される方は、健康になる方法を知ることが目的で来られるので、こちらもどうしても「健康には、健康のために」と言ってしまいがちです。健康をゴールにするのではなく、その先にアプローチできるように、健康の上で何をしたいのか、どんなビジョンを作るのかといった事を講座の中に組み込んでいけたらいいなと思っています。

コーチングを学ぶきっかけは、何だったのでしょうか?

 はじめは、ある人のブログでコーチングとはどんなものなのかを知りました。その後、日本理学療法士協会で「患者教育」という講座があり、そこでコーチングと出会いました。それは、医療系のコーチングで、どうしたら患者様が主体的になりモチベーションを上げられるのかという勉強会でした。

 リハビリは、コーチングととても相性が良いのです。例えば、歩けるようになりたいという目標があったとします。そのために、まず長期と短期ゴールを設定します。それから関節を何度まで柔らかくする、どのくらいの筋力が付く等、目標からトップダウンで課題を出してクリアしてくという考え方なのです。例えば、スーパーまで行きたいのであれば、家からスーパーまで何メートルだからこうしていこう等、解析度も必要になります。

 それを患者様が主体的に決めていければ良いのですが、患者様本人をおろそかにして家族と医療職の人達で、家に帰るにはこれぐらいが必要ですね、と決めてしまうパターンがありました。病気や怪我の場合、患者様の本心は歩けるようになりたくても、はなから無理だと諦めてしまい言えなくなってしまう事があるのです。

 今までの私は、なんとなく家の中をこれぐらい歩けた方が良いのでは?と、患者様本人の話を聴いていなかったなと反省しました。そこで、自信をつけ本人の思いを引き出す、ゴールを決める上で本人に話してもらうために、コーチングのスキルが必要だと思いました。

 ビジョンを作るのは、コーチングのフローチャートと同じ、思いを引き出す「傾聴」「質問」、関係性を築くコミュニケーション、主体性を上げる「承認」など。のちに、共創コーチングで学ぶのですが、伝え方も大事だと知りました。私の伝えたいように伝えていたら、伝わらなかった経験があります。患者様のタイプごとに伝え方も変えたほうが伝わりやすいし、本人に何が必要かを組み立てて接していれば、限られたリハビリの時間の中で、必要な質問も出来、必要な情報も得る事ができます。コミュニケーションの質という部分もあると思いました。

リハビリの現場の中で、何かエピソードはありますか?

 医療職と患者様の関係でリハビリをすると、なかなかモチベーションに火をつけるのは難しいと思っています。もちろん患者様ではありますが、その人自身に興味を持って、リスペクトする気持ちが無いと心を開いてもらえないですし、人と人で接する事で信頼関係が築きやすい。そうやって、コミュニケーションの質を意識してリハビリをしたら、予後がとても良くなった患者様がいました。言われたからリハビリをやるのではなく、自分からやってくれるようになったんです。

 なぜこの運動が必要なのか、なぜ良くなりたいのか、どこを目指しているのかという事を、よく対話しました。「患者教育」と言いますが、コーチングと同じです。その人に興味を持って、どんな人生を歩んできたか、どんな事を大事にしてきたのか、その人自身の価値観を理解する姿勢で対話をする事で信頼関係を築いていきました。

 私たち医療職が、患者様をどんなに動かしても、その人の筋肉は動きません。自動運動と言いますが、筋肉は、患者様本人が動かさないと動かないのです。だから、筋肉をつけるには、本人に動かしてもらうしかないんです。本人の意欲を上げて、働きかけ、声かけ、コミュニケーションをする必要性があると思っています。

 もうひとつ、寝たきりレベルの方が、歩く事ができるまで回復された事があります。認知症が進行された方で、ベッドから起こそうとすると「わぁ~!」と騒ぎ拒否がみられ離床が困難であり、寝たきりという状態でした。先ほどの例と違い、本人にわかってもらうというアプローチができません。どうしたら動きたくなるのかという事を考えました。

 本人が出来る事は何か?に着目しました。どんな事に意欲を示すのか、動くかという所を見ていくのは、強みを見出すコーチングに通じるかと思います。手でベッドを叩く動作はよくみられたので、そこでバレーボールならできるかもしれないと、風船を渡し手で返してもらう事をやってもらいました。

 さらにコミュニケーションという部分で、リハビリの時間だけ病室に行くのではなく、顔を覚えてもらい、安心感をもってもらうことをはじめに意識しました。まず朝病室へ行き、挨拶の際に様子が良かったらリハビリを行う。拒否があったら昼に行き、それも駄目だったら夕方に行ってと、1日3回ぐらい頻繁に病室へ行きました。初回に夕方に行って断られたらリハビリできないですからね。質ではなく量でした。

 はじめの頃のバレーボールは、不機嫌にバシバシ私に当てていましたが徐々に一緒にやってもらえるようになり、ベッドで寝返りができるようになって、さらに座る事もできるようになり、ついにベッドから離れて車椅子に乗る事ができるようになりました。

 この方は氷川きよしが大好きで、ズンドコ節を歌いながらだとノリノリでやってくれるという事に気がついたんです。ご家族様が「氷川きよしうちわ」を持って来てくださったり、「きよし君が呼んでるよ」と声掛けしたり、手引きですが、「きよしい!」と言いながら歩く事までできるようになりました。

 好きな事を知るのは、その人の人生を知るという事と思います。その人の人となりを知る事は、リハビリの意欲を引き出すきっかけにもなると実感した出来事です。

共創コーチングで学ぶ事になったのは、どういった経緯ですか?

 病院を辞めた後は、介護老人保健施設で働きました。そこでリーダー研修を受けた講師の方に、「私コーチング習いたいんですけど、どうやったら学べますか」って、聞いたんです。「神奈川県にあるコーチングチャプターはいろいろ学べるよ」と教えてくださって、色々な講座に出たり、そこに所属のコーチにコーチングを受けたりするうちに、もっと本格的に学びたいと思うようになりました。そこで、そのコーチの知り合いの知り合いが、YOKOさんとジョニーさんだったんです。

共創コーチングでの学びは、どうでしたか?

 8月のリレーションシップコースから入ったのですが、刺さりまくりました(笑)。本格的にコーチングを学びたいと思ったきっかけは、介護老人保健施設でリーダーの立場になり、どうしたらチームメンバーの良いところを引き出せるかについて、すごく考えていたからです。そこでわかったのは、自分の指導の仕方が完全にティーチングだったという事。私は、このやり方が良いから、あなたもこれが合っているはずだという、自分の成功法を押し付けていたという事に気が付きました。あいたたた!って感じですよね(笑)。

 また、コースの中で学ぶのですが、私はプロモータータイプ。当時、職場にいた苦手な人は、プロモータータイプから見ると、何を考えているかわからないアナライザータイプと知ります。学びの中で、なぜその人がそうなっているのか、その背景もわかり、それが心地よいのだという事も知り、反応が無いのは私に怒っているわけではない事もわかりました。私の捉え方と相手の行動を関連付けなくてよいのだと、しっかり線が引けた事で、すごく生きやすくなりました。

 それから、チームビルディングにとても役立ちました。コーチングは、目標に対してどのように行動していくかにアプローチしていきます。それをチーム単位で行いました。個々で持つ事も大事ですが、チームで動く時は、チームの目標があったほうが結束力も増し、お互いを補完し合えるチームになると考えています。もちろん、部署の目標や施設の目標はありますが、それとは別にチーム独自の目標を立てていました。心理的安全性を高めるために、ミーティングのルールを設定もしました。例えば、自分の違う意見が出たとしても、それは自分への否定ではないし攻撃でもない事。意見は最後まで聴く事。タイプ分けについても知識を共有したところ、バランスよくタイプが分かれている事もわかりました。

 今までの私は、出来ないところを出来るようにするのが良い指導だと思っていました。でも、出来ない事を永遠にさせるのは、本人も苦痛でしかない。このチームには、色々なタイプがいるのだから、チーム全体で見て出来ていればよいと考え方を変えました。

 すると、出来ない事があっても、できる人がやってくれるという補完し合える関係が出来ていきました。これは、お互いをリスペクトする事になり、タイプがみんな違うからこそうまく補完し合えたのだと思っています。さらに、得意な事をする事になるので、これもやりたいと意欲も上がっていきます。自分で考えて提案するようになり、ある程度決定を委ねる事で、自分で考えて判断するという自信もついて、主体性が伸びたと感じています。

 具体的にした事は、チーム全体にアプローチする事にプラスして、年に数回の面談を毎月の1on1に変更した事です。メンバー個人の立てた課題に対して振り返りの場となり、課題に対しての意識を高め行動に反映しやすくなりました。振り返りと安心できる場を作り、言語化する仕組みは、主体性の向上につながったと考えています。

共創コーチングを学ぶ中で、ご自身の変化という意味では、何かありましたか?

 共創コーチングの学びを振り返ると、私自身、人生レベルの変化がありました。まず、昇進をして、パートナーを探すところから婚約・結婚をし、退職し、再就職もするという激動の中を歩んできました。「決断のサポート力」というのが、コーチングの凄いところだと思います。

 そして、仲間が出来た事が大きいです。ここまで大きくライフステージに変化があると、相談する相手を選びます。友達、家族、職場、パートナーでは、話しにくい事もあります。その点、コーチには気兼ねなく安心して話せ、心の支えになりました。傷をなめ合うのではなく、互いの成長を促し合える関係性、心理的安全性が高い。

 先ほどのあいたたた!という例でお話すると、共創コーチの仲間は、率直な意見を言ってもらえ、背伸びしすぎなくても良いしそのままでいいというスタンスなので、こちらもすんなり受け入れる事ができます。自分のペースで進められるように、背中をトン!と押してくれるような感じです。コーチ仲間の課題を聴く事で、私自身の視野も広くなりました。

これから、どんな展開をしていきたいと思っていますか?

 理学療法士にプラスして、この2024年はコーチの活動を個人事業主として本格稼働していく予定です。

 まず、私の目指す理学療法士は、「対象者が健康のその先を意識する事で、結果的に運動したくなる」という流れを作り出し、それを仕掛けられる人になる事です。

 そして、コーチとしての活動目標は、「やりたいことを全部やって、悔いのない人生を。生きている実感を味わう」そんな人を送り出す事。病院勤務中は死の場面に直面しました。命は有限であり、それを知っているのは人間だけです。だからこそ、思う事なのかもしれません。

 もう一つ、将来のビジョンですが、「1病院1コーチ、1施設1コーチ」を目指しています。いつも忙しくイライラしているスタッフより、生き生きと働いているスタッフからサービスを受けた方が、患者様にも良い影響が生まれると思います。医療技術の進歩もあり病気になったら終わりではなく、人生は病気の先も続く可能性が高まりました。過去どうだったかよりも、これから先どう生きるか、未来を向いて歩むことでその後の人生の充実度が高まると思います。そのように患者様が思えるような働きかけをし、患者様から「ありがとう、残りの人生楽しんでいけるよ」と感謝さたら、言われたスタッフも嬉しくなりさらに生き生きすると思います。そういう好循環を生み出す現場が理想です。生き生きと働く人を増やすためにコーチが必要だと思います。

 また、医療・介護業界では上司も現場に出ている事が多いので、気軽に相談しにくい状況があります。ティーチングでない部分でコーチが課題解決のサポートを担うことで、スタッフの成長が加速すると思います。

コーチングの良いところ、魅力はどんなところですか?

 コーチングの良いところは、「ジャッジをしない」事だと思います。良いか悪いかではなく、自分が思った事、感じた事は全部良い。そのままでよいと思えるようになった事は、本当に楽になりました。

 コーチングを知る前の私は、敵か味方か、どうしたら効率よく生きていけるか、どうしたら自分の利益になるかという損得の意識が強かったように思います。やりたい事をやるのではなく、一般的に「これをやっていたらいいよね」ということをやっていました。自分を軸にして見ていくと、ジャッジではなく「楽しい」ってことで選べるし、人に対してもそう見えるようになると思います。「ジャッジしない」ので、相手の背景まで視野を広く持てるので、悪者を作らないと思っています。

 そして、コーチングの魅力は、決断をサポートされることで実現が早くなる事、自己理解が深まる事だと思います。意外と自分の事は、わかっているようでわかっていないもの。自分が好きな事、やりたい事をわかっていたほうが、ストレス解消となり健康にも繋がるし、悔いのない人生になると思うので、そこが1番の魅力だと思っています。自分の内側に判断基準を作り、どんどん純度を増していくのがコーチングかなと思います。