• 受講生インタビュー

コーチングは学生の人間力を涵養(かんよう)する。

PROFILE
久林 直美(ひさばやし なおみ)

名古屋市出身。名古屋市の中学校校長を2022年3月に定年退職。
現在は大学教授。
現役中は、名古屋市内の中学校の保健体育科教師、教育委員会指導主事、中学校校長。
荒れた中学校時代の頃、生徒指導主事を務め、教育相談と出会う。
校長として職員の面談を通してコーチングの必要性を感じ、2017年に共創コーチ®資格取得。
現在は大学で、人間力総合演習(ディプロマポロシー)に取り組むことで、学生が「自分で自分をコントロールする力を育成」できることを目指し、コーチングを活用した実践に挑戦中。

コーチングとの出会いは、どんな事から始まりましたか?

 中学の教員だった私は、初任校では、ハンドボール部の顧問でした。当時は、ほとんど毎日練習をし、全国大会で準優勝など、数々の大きな大会を出場し続けるチームを作ってきました。時代も時代で、校内で絶えず暴力行為などが発生し、少年犯罪に結びつく行為も稀ではありませんでした。当時、体育教師イコール生徒指導担当を任されていたので、部活動指導を通して「強いものを育てる」という部分を求められていたように感じ、使命感がありました。

 そうした中、私自身が結婚、出産、子育てを通して、生徒と向き合うことなど、教育観に変化が出てきました。毎日の出来事に翻弄され、逸脱した行為に対して対峙するではなく、生徒の内面と向き合っていく必要があると考えるようになっていきました。内面に触れていく事の大切さを、自分の子育てから教えられたようでした。

 そこで始めたのが、学校教育相談の勉強です。カウンセリングを学んでいくのですが、その過程で「コーチング」にも出会いました。ただ、当時の私は「コーチングイコール質問攻め?それでは内面に行けないのでは」と違和感を持ち、しばらく意識の隅っこに追いやられてしまいました。

 そんな中、時代は変わり、生徒も変わっていきます。カウンセリングの要素は基盤として必要ですが、私の立場は、生徒指導より、保護者対応、職員への支援という側面が増えていきました。教育センターの指導主事となり、保護者や児童生徒の相談活動をはじめ、教職員への教育相談活動の研修、教育相談の研究を深め学校現場に還元し、学校を支援していくという時期を5年間務めました。その後、学校現場に戻って「教頭」という役職になると、授業はほとんどなく、地域とのかかわりや、保護者と職員を支援していくことが仕事でした。

 この頃、スクールカウンセラーという専門職が学校現場に配置され、学校で、教員ができる相談活動とは、他にもあるのではないかと思うようになったのです。教育相談とカウンセリングは違う。相談者が十分に話をする事で気が済んで納まるという事を何度も経験して、「これは、頭の中の整理が出来ればいいのではないか。これは、コーチングというものではないか?」と感じ始めていました。

 ようやく、ここから、コーチングを深く学び、自身が企業や学校でコーチをしている知り合いを通して、YOKOさんやジョニーさんを紹介していただくことになっていきます。

 当時、校長として、教職員との面談をする機会が多いため、そこではコーチの研修で学んだことを実践していました。職員が変われば、生徒への影響も大きいので、コーチを通して、職員へ後方支援ができることが楽しかったです。

コーチングが教育に必要だというのは、具体的にどういうことでしょうか?

 先生たちが投げかける言葉で、子ども達はすごく変わります。例えば、「発問(はつもん)」という言葉があります。教育用語なのですが、質問とは違うものです。投げかけた問いに対して、答えがひとつではなかったり、深く考えたりするものを発問と言います。具体的な例でいうと、「どうして太陽は出ているのかな?」と問う。すると、「ええ?!」って考えますよね。ちょっと心が揺さぶられる。これが発問です。それに対して、「太陽は出ていますか?」「はい」「太陽は進んでいますか?」「はい」等と、答えをバンっと出せるモノを質問というふうに分けているのです。

 発問は、揺さぶり。授業内で発問を投げかける事で、子ども達に気づきを起こさせる。これはまさしくコーチングで使っている「質問」と同じ。そこから、教育にはコーチングは絶対に欠かせないと思うようになりました。投げかけて考えさせる事。今、教育では、「主体的に考えろ、自分の考えをもて」と言っているのです。発問は大事。コーチングも答えは自分の中にあると言いますね。

今現在、どのようなお仕事をされているのでしょうか。

 私は、大学で教育課程の教鞭をとっています。そして、今年から人間力開発センター長という役職も任されています。

 これは本大学のディプロマポリシー(「卒業認定・学位授与の方針」の意味)に則って、「人間力形成するための人間力総合演習」という科目のとりまとめをするものです。4年間で60時間、この演習をしなければならない事になっています。

 今年度から私は、この演習を中心に進める「人間力開発センター長」という立場で、学生の人間力形成に何をどう活かしていくのかという視点で、仕組みや演習、講義の見直しをし、新たな試みを開始したところです。この演習では、必ずクリアしなければならない条件があります。それは、「学生自身の主体性をもつという事」あるいは「自分で企画を立てて自分が実行する」という要素が必ず入っていなければならないのです。

 例えば、ボランティア活動ですと、ボランティア団体から依頼された事を受けるのではなく、学生が主体的に考え、企画なり仕組みなりを考えて参加できる内容で、教材にして受けます。これをセンター企画。また、大学教員は、様々な研究をしているので、学生に考えさせたいという企画があれば、選考に応募してきた学生を対象に行うという教員企画。学生自身が考えた企画を行う自己企画。この三つの企画を持って、人間力総合演習としています。

 「自分で自分を育てる力を育てて、社会に出そう」というのが、この演習で目指すものです。そして、演習によって、自分で身に付けたい力を付けるために行っているという主体性が大切で、それを私の講義で確認しています。1年生年間4回 2年生~4年生は年間3回。今年始めたところなので、4ヵ月目に入ったところです。

 1年生は「人間力総合演習」って何だろうというところから始まり、2回目にジョニーさんに、「セルフコーチング」について講義をしてもらっています。3回目の講義は私が担当し、実際、学生自身が自分でどういうことを考えて、どんな力を身につけるのかという意識のもと、自分が主体的に取り組んだのはどんなものだったのかを発表し合うものです。4回目は、学生が取り組んだ演習の中から、こちらが良いと判断した演習を提示して、来年度、どういう目標を持ってやっていくのかと視野を広げたり、目標を絞ったりしていくものです。

 実際には、人間力総合演習の60時間を1年間で全部終わらせてしまう学生もいれば、3年生なのに1時間もやってない学生もいて、様々です。

具体的に、今コーチングをどう活かしていらっしゃいますか?

 まずは、人間力総合演習の授業で、授業中に問いを投げかけること、コーチングフローを使って「何を目標にしているのか」「障害は何か」等、行っています。

 次に、学生の相談です。ここの研究室を訪ねてくる学生に対して、進路、人間関係、部活動等と様々な悩みを聞くときに使っています。もちろん、学生相談室はあります。そこに繋いだ方が良い時には、繋ぎます。しかし、私のところに来るという事は、相談するという目的で学生がやってくるわけです。学生は話がしたくて来るので、コーチングを使いながら、学生の頭の整理に向き合います。

 卒業後学生が、過去を振り返った時、「そういえば、大学の久林って教授に話しをすると、どこに向かっているの?とかってよく聞かれたな」「そのために何してるの?何でできない?何が障害なの?って聞かれたなぁ」と思い出してくれたらと思います。そういった経験が、学生たちの力になったらと願います。なぜなら、世の中に出た時、自分のことを理解してもらえない上司に出会った時など、自分にとって何が嫌なのか、どうするとよい状態になるのか、そのために誰をたよるとよいのかなど、どうやっていけばよいということを自身で気が付き行動していけたらよいのかなと思っています。

これから、どんな事をしていきたいのでしょうか?

 大学で教える教員ならば、「子ども達を教える人にかかわることができる。育てることができる。」と思い、教師を志す学生に託していこうと考えました。

 それは、本大学での定年までの展望として、私の目標として持っているコーチングを、学生が自然に身につくように基盤作りをして社会に送り出したい、それが私の目標です。

 涵養(かんよう)という言葉があります。私は、この言葉が好きなのですが、じわじわじわぁ〜ってその人に染み付いて、自然と身についていく、無理のないようにだんだん養い作ることという意味です。

 この大学にやってきた学生が私と出会い、挨拶をしたり相談にきたり、声をかけたりという事から講義に至るまでの中で、コーチングと出会い、彼らがセルフコーチングできるように身に付けて、社会に出ても自分でできるよう、学生を育てていくことだと思っています。

あなたにとって、コーチングとはなんでしょうか?

 二つあると思っています。

 一つ目は、行動へ繋げていくエネルギー源です。以前の話ですが、校長室に相談に来る先生方の話を、コーチングを使いながら整理をしていました。「こういう時はどうしているの?純粋に思っただけなんだけど?」なんて、すっとぼけながら聴きますね。すると「あ!」って気がつく瞬間が出てきます。そして、「ありがとうございました!」って言いながら校長室を出ていきます。自分で気付いたのだから、次の実践に結びついてたらいいなぁって願いながら、先生方の背中に魔法をヒュ〜ヒュ〜っと掛けていました。

 二つ目は、「未来を考えよう」というのは、コーチングだけです。カウンセリングや相談の勉強には出てこないことです。この部分に「これは!」と思いました。例えば、近未来でどうなりたい?という話は、相談の中でもあります。でも、コーチングでは、近未来的なものだけでなく、視点を変えながら10年後はどうなっていたい?などと思いを聴いていくこともするので、未来を見させてもらえる感じがあります。そこにエネルギーを感じる。コーチングは、未来が見れる、見ていいんだという事を教えてくれました。

 多角的に立体的に、問題と思っていたものを、問題だけじゃない見方を教えてくれる。5年後は?10年後は?と未来も見せてくれるので、プラスを与えてくれます。「コーチングは、未来が見られる」そこが、コーチングの素晴らしさでもあると思っています。