- 受講生インタビュー
信頼できるコーチングを広く伝えるために。
藤田 大樹(ふじた だいじゅ)
大学院生のとき研究が上手く行かずうつ病になり、復活して会社員になった後、逆に良い成果がきっかけとなって周囲の期待を上手く処理できずプレッシャーを感じ再びうつ病に。
カウンセラーやコーチに思考と感情の整理整頓を支援してもらい、メンタルケアは仕事のパフォーマンスの維持・向上にも、人間関係改善や幸福度の向上にも、大きなインパクトを与えることを痛感。頑張っているリーダーたちに対してメンタルケアが必要だと感じ、また、メンタルケアによってリーダーたちの持つ可能性をもっと広げられるという確信を持ち、プロコーチとなることを志した。
〇主に小規模企業経営者さんへの1対1のコーチング
○企業研修:コーチング/コミュニケーション/メンタルスキルの研修
◯コーチの育成
■1000時間超のコーチング実践
■200時間超のコーチング指導
京都大学総合人間学部卒業
名古屋大学大学院理学研究科博士前期課程修了理学修士
国際コーチング連盟PCC(Professional Certified Coach)
EAPメンタルヘルスカウンセリング協会EAPメンタルヘルスカウンセラー
共創®コーチ
プロコーチとして、どのような活動をされていますか?
僕は、ビジネスコーチングとパーソナルコーチングの中間的な感じでやっています。クライアントは中小企業経営者やひとり社長が多く、テーマは人それぞれですが、部下にしっかり働いてほしいというような話題から、自分は本当はどういう事をやりたいのか、あるいはこれからやっていく事業のアイデアをもっと出したい、整理したいなどの話題もよくあります。クライアントはビジネスをやっている人ですが、セッションの内容としては、パーソナルコーチングの内容をやっている事のほうが多いように思います。
そのほかに、研修講師やカウンセリングもやっています。
コーチングを始めるきっかけについて、教えてください。
僕は、大学院で物理学の研究をしていたんですね。このまま研究者になれば、自然界がどうなっているのかについて、そればかり考えている事ができる、人と関わらずに済むと思っていました。そんな時、鬱になりました。人間関係に疲れていたのだと思います。なんとか回復して会社員になりましたが、そこでもまた鬱になりました。この2度目の鬱の時に、カウンセリングに助けられ、カウンセラーの方が持っている技術は、すごいな!と思ったんです。人間関係に疲れている僕が、人に助けてもらい、人って素晴らしいな!って思いました。
それがきっかけで、「人の心理的な支援をする仕事」をしてみたいと思うようになっていきました。2014年頃に参加したあるビジネス講座で、コーチングの先生と出会い、そこで初めてコーチングを知り、学び始めました。それからしばらくしてICFの資格も持っていたほうが良いと思うようになり、「共創コーチング」でさらなる学びをする事にしました。
プロコーチの醍醐味って、何でしょうか?
セッションの中で、僕もクライアントも想定していなかったようなアイデアが見つかったり、面白い展開、意外な展開になった時。そしてそれが「すごい良かったよ」と言ってもらえるのは、まさにコーチングの面白い部分だと思います。
ダイレクトにクライアントの変化を感じ取れる、ダイレクトに感謝される事。そして、完全に相手の味方になれる事。
社内で上司が部下にコーチングをしようとすると、「会社の要求」というものがあると思うので、100%味方になる事は難しい部分があると思います。その点、プロコーチだと全力で相手を応援できる。また、コーチングではなく別の仕事であれば、相手との駆け引き、勝ち負け、自分が得をするには相手が損をするというような関係がある場合もあります。プロコーチは、完全にwinwinの関係です。クライアントが喜べば、僕にとっても良い事になる。そういう関係だけで100%仕事が出来ている事は、本当に幸せな仕事だと思っています。
大学院で心理学を学ぼうと思ったきっかけは何でしたか?
コーチングの学びを始めた頃、「コーチングってどんなモノなんだろう?」と色々調べていたら、「コーチングの黒歴史」のようなものが目につきました。(うろ覚えですが)1990年代頃、日本でコーチングと呼ばれるものが流行り、モーレツ社員を育てるための研修やマルチ商法で儲けるために、コーチングのスキルが使われたり、また、コーチングとは全く違うことも行われたりしたようです。
僕たちがやっているコーチングではない!これと一緒にされたくない!という思いが、強くあります。実際、コーチングを人に説明するのは難しいです。僕がコーチングやっていますと言うと「え、コーチングって怪しいやつなんじゃないの?」って言われる事もあります。怪しいものではなく、根拠に基づいたコーチングがやれるようになりたいと思ったのが原点です。
僕はもともと理系人間なので、どういう理由でそうなっているのか、本当にそうなのか、たまたまそうなったのではないのか、そういう点が気になっていました。コーチングって感覚的な部分も多分にあるので。コーチングを日本でちゃんと広めていくためには、学術的な裏付け・情報が必要だと思っています。もちろん、単に「現在のコーチング」を広めるために裏付けをとるということではなく、研究の結果コーチングの方法に修正が必要だとわかったら謙虚に修正を加えて、より確かなものを広めていくということが必要だと思います。
共創コーチングの養成コースの中で行われるロープレで、「何でもできるとしたら、どんな事をしたいですか?」という質問に、僕はこう答えていました。「何でも出来るんだったら、『学校の先生になる人は、全員コーチングスキルを身につけなければなりません』という世の中を作る」と。
そのためには、「コーチングの知名度を上げる事」と「信頼に値するコーチングを広める事」の両方の必要があると考えています。「信頼に値するコーチングを広める事」を進めている方はいるけれど、まだまだ人手が足りないように思います。僕は学校の勉強はわりと得意なので、僕が貢献できる事は、イギリスなどで研究されている信頼できる情報を日本に輸入し伝えていく事だと思います。
大学院での学びについて、教えてください。
僕は今、イギリスのスコットランドの大学院で学んでいます。イングランドやオーストラリアの大学院とで迷いましたが、心理学の中でも組織心理学やリーダーシップなど、ビジネスの文脈に特化した心理学の科目が充実した大学院のコースを選びました。
イギリスの心理学会にコーチング心理学部門があり、そこのメンバーに登録しています。この心理学会でコーチングサイコロジストと認められるためには、ICFの認定コーチだけでは足りず、心理学の素養がしっかりある事を示す必要があります。そのための大学院での学びでもあります。心理学会で、コーチング心理学を始めとした様々な情報を仕入れて行きたいですし、チャンスがあれば、何か情報発信もしたいと考えています。
大学院で学び始めて最初にわかった事は、心理学が結構緻密に科学として研究されている事。以前学んだ物理学と比べれば、もちろんあやふやな部分もありますが、思っていたより緻密に研究されているのが肌感覚でわかりました。
その一方で、いかにも科学的と思うような数値化を重視する研究手法ではない方法も発展してきていて興味深いです。20世紀には定量的な研究手法が流行っていました。実験室に被験者に来ていただいて、ある実験条件におけるなんらかの行動をしてもらい、どういう反応をしたかというのを数値化して、そこから統計的に、こうやるとこうなるという法則性を導き出すというものでした。でも最近では、人は数値で表せない複雑な部分があるという事に着目して、その人個人の全体をみるという定性的な研究手法が着目され始めています。例えば、あるテーマについて、数人のグループで語り合ってもらい、その人たちの感じ方や行動の選び方を、それぞれがどのような環境でどのような生き方をしてきたのかという背景や文脈の影響も含めて解釈するという研究です。
そのような研究には研究者自身の主観が入るので、心理学者の中には「客観性や再現性にかける」と批判的に捉える人もいます。研究者それぞれに取るポジションが違い、どんな時にも成り立つ法則を見つけたいという研究者もいれば、そんなことにはまったく興味がなく、研究対象の個人がどう感じているのかを深く知りたいという研究者もいる。そして、その中間の研究者もたくさんいるわけです。
僕は、研究の成果が常に成り立つ法則ではなかったとしても、様々な事象から人間についての理解が深まる事が自分自身のコーチングを豊かにしてくれると考えています。ですので、定性的研究手法にも大変興味を持っています。
学んだことの中で、コーチングに役立つものはどんなものでしょうか?
今はまだコーチング心理学についての勉強はしていませんが、コーチングに役立つことは色々と見つかりました。
例えば「男性性について」の定性的な分析をするという課題がありました。先行研究では今どこまでわかっているのかを調べた上で、ある男性のインタビューを読んで、その人の感じ方・考え方についてテーマ分析という手法を使って調べました。先行研究の調査を踏まえた上で個人の言動を分析していくと、言動の裏にはどのような動機や考え方があるか、そしてそのような考え方はどのような環境や経験が元になっているのか、深く考えることが出来ます。例えばその男性の場合、伝統的な男性性を自分自身に必要とする気持ちと、男性性を周囲に誇示しようとする行動への否定的な考え方との両方があること、そしてその理由についていくつかの仮説をたてることが出来ました。このようにして個人への理解を深めていくと、その人がどのような選択をする可能性が高いか、どのようなことでエネルギーを失う可能性があるか等の洞察が得られます。このような分析の経験を積み重ねたり論文を読んだりすることで、目の前のクライアントの様子を見て「もしかしたらこんな理由があるかもしれないな」等と、クライアントの中で起きていることを把握するためのヒントが得られると思っています。
それから、モチベーションに関しての色々な理論もコーチングに役立ちそうです。一口にモチベーションと言っても様々な理論があります。例えば、有名な「マズローの5段階欲求説」もその一つで、どういうものに対して欲求が発生するかという、ある意味単純な理論です。他には、内発的動機づけを高めるには、自律性・他者との関連性・能力の3つの要素が大きな影響を与えるという理論や、欲求が発生したり無くなっていったりするプロセスについての理論も何種類かあって面白いですよ。クライアントがモチベーションが上がらないという話をしていたら、それらの理論に照らして、どこか欠けている所はないかなとみる事が出来ます。
もし、これから海外の大学院で勉強したいなという人がいたら、その人へ、お伝えしたい事があります。オンラインコースでは言語の壁は想像より低いです。大学にもよるかもしれませんが、オンラインでの勉強は主に動画でする事になります。くり返し再生が出来るし、先生によっては話している内容をすべて文字にしてくれています。ですので、優れた英語力がなかったとしても、時間を掛ければ勉強は出来ます。最近の機械翻訳は精度も高いので、レポート作成のときに活用すれば一から英作文するより早く進みます。もちろん苦労はしますが、英語ネイテイブスピーカーも「うわぁ!大変!死にそう!」って言いながらやっているので、一緒に騒ぎながらやって行ったらいいと思います。楽しく学んでいます(笑)。
これから、どんな事をしていきたいですか?
コーチングが広く使われていくように、コーチングに関する情報をどんどん輸入していきたいなと思っています。そして、自分のコーチングスキルもしっかりレベルアップしていく事。どうしてもメンテナンスをしないと自己流(自己満足)になっていくので、そのために学び続け、最新の情報を仕入れていきたいなと思っています。
それと、コーチに対して、より良いコーチングにするためにアドバイスも出来るようになりたいと思っています。なぜなら、今の世の中の流れをみていると、コーチングスキルを持っている人はどんどん増えると思います。でも、その品質維持までしっかりやっている人は、そう多くないだろうと。もしもだんだんと変なコーチングが増えて、世界がハッピーになっていかなくなったら嫌だなと。コーチングのスーパービジョンのサービスメニューを作る等、自分だけコーチングを磨くのではなく、他のコーチにもコーチングを磨くお手伝いで貢献出来たらと思っています。
その先の目標としては、2024年に今学んでいる心理学を修了したら、さらにコーチング心理学の専門的な学びへ進むために次の大学院への入学を目指します。博士課程までいけたらいいなと思っています。
このインタビュー記事を読んでいる方に呼び掛けたい事はありますか?
先日、ある「コーチングとメンタリングの学術誌」で、面白い論文を見つけました。日本語タイトルだと「コーチングを受ける人の行動変化の準備度合いの理論」とでも言うのでしょうか。これから自分自身に変化をもたらすことについて、クライアントがどれくらい準備できているか、その段階を3つに分けて、コーチがどうかかわっていけばよいのかをまとめた論文です。「自分が変化していくためにすぐにでも行動を起こすつもりの状態」、「変化したいんだけどなんかできないんだよっていう状態」、「全然変化の必要性を受け止めていない状態」。それぞれに、コーチは何を目的にどのように関わっていきましょうかという話を、様々な研究成果を基にまとめてくれているものなんです。興味深いですよね。これが無料の論文として、出ています。
こういった無料で出ている論文を使って、コーチング心理学を一緒に勉強したいという方がいたら、ぜひ僕までご連絡ください。僕が論文を紹介する形で、コーチング心理学の勉強会をやってみたいと思っています。まだまだ具体的な仕組みまで考えていないので、ざっくばらんにコーチング心理学についておしゃべりしたり、どうやって運用していくのかも含めて、そんなところからスタートできたらと思っています。