• 受講生インタビュー

医療現場で関わる人と対話を通して良い関係を築く

PROFILE
共創コーチ® 医療法人瑞心会 渡辺病院 作業療法士
福永康祐(ふくなが やすひろ)

広島県生まれ。名古屋市在住
国際医療福祉大学 大学院生
ニューヨーク市立リーマン大学で経済学を学び帰国。一般企業に就職後、誰かの為に夢中になれる仕事を求めて藤田保健衛生大学リハビリテーション専門学校に進学し、作業療法士となる。その後、教育に関心を持ち、コーチングスキルを学び、共創コーチ®の資格を取得。
コーチングセッションは、「温かく包み込まれるような空気感」を感じると好評。病院で作業療法士として働き、患者さんの「その人らしさ」を大切にしている。今年から大学院で教育学も学んでいる。

コーチングと出会った頃、どんなことで悩んでいましたか?

日本作業療法士協会(JAOT)主催の「臨床実習指導者研修-中級研修・上級研修」を受講して、初めて“コーチング”について知りました。

その頃私は、臨床の他に毎年のように病院に来る実習生の指導に関るようになっていました。実習指導は、指導なので自ずと上下の関係があり、一方的に教えるというのが普通でした。また、実習生は、「患者さんの症例レポートをまとめる課題」と「毎日の臨床実習の記録」等で睡眠時間を奪われていました。実習自体が実習生にとってストレスがかかるものになっていたと思います。

ある時、私は職場の上司に呼ばれ、実習指導の様子についてやんわりと聞かれ、「指導のやり方について少し工夫がいるかもね」と言われました。それで、これまでのような自分なりの指導方法ではダメだと思うようになりました。自分でも本当にこの指導方法でいいのかと悩んでいたので、研修で「コーチング」について聞いたとき、興味をもったのだと思います。

研修で知ったコーチングは、「実習生の話をきちんと聴くこと」や「実習生と対等に話す」というところが、これまで自分がしてきた実習生との関わりとはまるで違いました。それで、コーチングを取り入れれば、もしかしたら違うやり方で実習指導ができるのかもしれない、と思いました。

共創コーチング®養成スクールを選んだのは、なぜですか?

研修が終わってから、私はコーチング関連の本を読むようになりました。まずは、日本人初のMCC(国際コーチ連盟認定マスターコーチ)である伊藤守氏の書籍「図解コーチングマネジメント」を読みました。さらに、伊藤氏の書籍「コーチングの教科書」によると、コーチを選ぶ基準(伊藤,2010)は、コーチが「どのようなプログラムでコーチングを学んでいるかが大切」で、その目安は「ICF(国際コーチ連盟)の認定を受けているプログラムであること」ということでした。

それで、この条件を満たすスクールはないかとネットで検索すると、家のすぐ近くに共創コーチ®養成スクールがあることが分かりました。講師は、ICFのMCCでした。無料の体験会があったので、まずはそこから参加してみました。本格的に学ぶかどうか、その後も数年迷っていましたが、市販の本を読んでいるだけでは分からないことも多く、基礎コースに通うことにしました。

スクールでは講師や他の参加者から、自分のセッションについてフィードバックをもらい、「話しやすい」と何度も言われて嬉しかったです。そういう体験は、自分にとって新鮮でした。その後プロフェショナルコースに通うようになると、自分でクライアントを見つけて、コーチングセッションをすることになりました。
そして数年経つと、習ったコーチングスキルを実際に職場でも活用することができるようになっていきました。

共創コーチング®を学んで、働く上でどんなことが変わりましたか?

自分に声をかけてくる人がいたら、「手を止めて、体を相手の方に向けて、話を聴く」ようになりました。基礎コースで「話を聴いてもらうとどんな気持ちになるか、聴いてもらえないとどんな気持ちになるのか」、実際にワークで体験したからです。現場で手を止めて、体を相手の方に向けて、話を聴いても大して仕事には差し支えありませんでした。むしろ、そうやって聴いた方が話が早く終わることも多く、聞き逃すことも少ないことに気がつきました。

以前は、職場で会議をするとよく同僚から「独りよがりだ」と言われていました。自分の意見だけを押し通そうとしているように見えたのだと思います。今は、他の人の意見を聞いて受け入れたり、受け入れられない時にも「そういう意見もあるんだ」と中立の立場を取ったりできるようになりました。自分の意見を伝える時には、反発を招くような伝え方ではなく、Iメッセージ(自分を主語にした伝え方)で相手が受け取りやすい伝え方をするようにしています。また、相手に何かを依頼することもあるのですが、一方的に頼むのではなく、「どういうやり方だったらできそうですか?」と相手が受け入れやすい状況を聴くようになりました。

多職種連携という意味でもコーチングは役立っています。病院では、事務さん、看護師さん、栄養士さんなど様々な職種の人が働いています。それぞれに役割があり、業務内容がリハビリスタッフと一部重なる部分があります。例えば、検温やおむつ交換をリハビリ中にしておくと看護師さんの仕事もはかどります。

そんな中で、リハビリ科の中で「他職種と連携がもっと取れるようになりたい」という声が挙がったことがありました。そこで、リハビリ科研修部の活動として「リハビリテーション科のスタッフに知っておいて欲しいことはありますか」などと他職種に対してアンケートを実施することになりました。そして、他職種から答えをもらって、それについてリハビリ科で話し合い、対応するようになりました。アンケートを通して、他部署の意見を聴くことができて、それに答えていくといった部署間の対話のようなものが生まれました。

実習指導は、どう変化しましたか?

実習生に対する指導では、対話が増えて、私の話す時間が減りました。実習生と私が話す割合は、7対3ぐらいです。例えば実習の最初には、「新しい患者さんと初めて会うとき、何が大事ですか?」と質問するようにしています。実習生の考えに耳を傾けて、どんな答えが返ってきてもダメ出しするのではなく、受け入れるようにしています。

私が実習初日に教えることにしているのは、主にカルテにどんな情報が載っているのかについてです。後日、患者さんについて臨床上の疑問が生まれた時に、「この情報はどうしたら確認できるだろうか?」と問うと、実習生は情報収集の為にその患者さんのカルテに戻ることになります。最初からカルテ情報のすべてを理解させるのではなく、実習生が患者さんについて知りたいと思うことにまずは注目させるようにしています。そうすることで、カルテ情報の役割が分かり、学びの焦点が絞られるので、余分な時間が減ったように思います。

患者さんとの関わりでは、コーチングをどう活かしていますか?

新しい患者さんが来たときには、可能であれば1時間ぐらい話を聴くようにしています。患者さんは、ご高齢で認知機能の衰えのある方も多いのですが、初日にじっくり話を聴くと、こちらのことを何となく覚えてくれている感じがします。話せる方であれば「今、どうしてここに居るか分かりますか?」と聞き、本人が病状などの現状をどのくらい分かっているかを聴きます。そうすると、たくさん話してくださるので、患者さんのことがよく分かるようになります。話をしっかり聴くと、患者さんと良い関係が築けて、その後のリハビリがよりスムーズに進みます。話に一貫性のない患者さんも多いのですが、「今日はどんな話が聴けるのかな」とその時々の会話を私は楽しみにしています。

福永さんにとって、コーチングとは何ですか?

普通の会話とは違って、「意図のある会話ができるもの」だと思います。コーチングでは、目標達成に向けて話したり、関係作りのために話したりするからです。コーチングに出会って、相手の話をしっかり聴くようになったことで対話が生まれ、実習生や患者さん、他のスタッフと以前より良い関係が築けるようになりました。

コーチングスキルを活用すればするほど、私の場合は対話を楽しめるようになっていきました。もっと多くの人に「コーチング」を知ってもらい、対話を楽しんでもらえると嬉しいです。